脱輪機関車

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映画『デリシャスパーティ♡プリキュア 夢みる♡お子さまランチ!』感想 ~"ヒーロー"和実ゆい、おばあちゃんからの脱却

2X歳、異常独身男性が先日、ょぅι゙ょ先輩方に混じり、久々に劇場でプリキュア映画を鑑賞してきました。

 

映画デリシャスパーティ♡プリキュア 夢みる♡お子さまランチ! 通常版 [DVD]

 

コロナ禍やその他諸々の事情により、劇場に足を運んだのは、実にHUGっと!プリキュアふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』以来。

しかし正直なところ、個人的には今回の映画には、あまり期待していませんでした。それはなぜか。

答えは、『デリシャスパーティ♡プリキュアテレビ本編にあまりノれていなかったため。

 

エナジー妖精3体が変身する、という要素は魔法つかいプリキュア! 奇跡の変身!キュアモフルン!』を彷彿とさせ、言葉を選ばずに言えば二番煎じ臭が拭えませんでした(とはいえもう6年前の映画なので、メインターゲット層へのアプローチとしては何ら問題はないのですが)(いやまほプリが6年前ってマジ??)。

それと、『デパプリ』本編のキャラは深堀り度や優遇度に差がある印象で、濃いキャラはそれなりに濃いのだけれど、薄いキャラは徹底的に薄い。3妖精(特にメンメン)は薄い側に入ると思っており、モフルンと比較した場合キャラ立ちの差が圧倒的で、「この子たちが変身したところで盛り上がるのか?」という疑問もありました。

そしてその点でいくと何より問題なのは、主役である和実ゆい。ぶっちゃけこの子が一番キャラが薄いと思っており、そこが『デパプリ』最大の問題点だと思っていました。なにしろ主役のキャラが薄いと、盛り上がるべきタイミングで何を言っても響かないですから。

今作は東映アニメーションへの不正アクセスの影響でいくつか話数が削られましたが、それでも映画公開日(2022/09/23)時点で28話まで放送されています。

それまでに、主役の和実ゆいちゃんのメイン回(掘り下げ回)といえるようなエピソードは、果たしてどれだけあったでしょうか。筆者はせいぜい1,2話までで、以降それらしき回がまったく思い出せません。いつもここねらん、次点であまね拓海の話ばかりしているイメージです(一応31話ではようやくメイン回が用意されるようですが、あまりにも遅すぎる。なんでこんなに引っ張ったんでしょうか)。

では本人の掘り下げがない分、他キャラの精神的な支えになっている(悩みに対する気づきを促す)、もしくはトラブルメーカーとして話を動かしているか。これもどちらもNOだと思います。もっと言うと、拓海との恋愛模様も、今のところ進む気配がありません。

食べるのが大好きで、ちょっぴり天然で、みんなに優しく、正義感が強い。プリキュアの主人公として申し分ない属性を持ってはいます。

が、記号のままそこから発展しなくては、キャラクターは人間ではなく、脚本の操り人形になってしまう。その最たる台詞が「おばあちゃん言ってた!」であり、この作品の負の象徴です。こっちは和実ゆいという少女がどんなことを考えているか知りたいのに、なぜか回りくどいおばあちゃんの台詞を引用し、借りてきた言葉で何か言ったつもりになる。これではキャラが深まるはずもありません。*1

「人形みたいな女」。それが自分の思う、和実ゆいというキャラです。

 

長々と不満ばかりをぶちまけてしまったので、人によってはすでにブラウザバックされているかもしれませんが、そんな女児向けアニメにご執心な異常独身男性……もとい大きなお友達も、今回の映画には大満足でした。そういう話がしたいのです。

 

前置きが長くなりましたが、これより先、ネタバレ込み感想です。

 

"ヒーロー"和実ゆい

語りたいことはたくさんあるのですが、まああれだけゆいをボコしたからには、やはり最初にゆいの描写に触れておくべきでしょうか。

結論から言うと、非常によかったです。「掘り下げ」という観点から言えば今一歩かなとも思わなくはないですが、きちんと「主人公」していたとは思うので、その点ではとても満足しています。

とはいっても、厳密に言うならばゆいとコメコメのW主人公といった印象で、俗に言う成長型主人公がコメコメ、英雄型主人公がゆい、といった分担に見えました。テレビ版では英雄にもなれてないのでこれ以上を望むのは贅沢かなと

 

実際劇中では、コメコメゆいのことを「ヒーロー」と称して憧れの対象に置いています。そしてそれは単なる台詞だけに留まらず、ゆいテレビ版より積極的に他人を助け、ケット・シーにも寄り添い、短い尺の中でコンスタントにヒーロー像を示していました。このゆいの描写に説得力があるからこそ、コメコメ(たち)が変身するくだりも非常に熱く、燃えるものに仕上がっていたと思います。

 

また、ケット・シーに寄り添うくだりに関しても、個人的には非常に見応えを感じました。

実験の成果を大人に利用され、嘲笑されるケット・シー*2の過去を受け、ゆいは、「『ご飯は笑顔』じゃどうにもならないこともあるのかな…」と、葛藤を見せます。そうしてみんなが戦っている中、コメコメとともに答えに迷うゆい*3

 

 

 

 

 

 

これこれ!!!!!!!これが見たかったんですよ!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

失礼、取り乱しました。

でも実際、劇場で内心、こんなふうに叫んでいました。

テレビ本編第28話で、ナルシストルーに完敗したゆい。彼女が一切悩むことなく、ケロッとした様子でおにぎりを振る舞ってきたときは、ショックを受けました。

なにもくよくよしている姿が見たい、いじめたい、とかいうことではなく。あれだけ追い詰められても悩まないというのは、単に不自然だなと思いました。せめてみんなの前では明るくしているが、実際はわりと堪えている―みたいな描写のひとつでもあれば、印象は違ったのですが。

イヤなことも食べて忘れよう、というスタンスは、確かにある意味ゆいらしいです。しかしそれで終わると、キャラが広がらない。

掘り下げのチャンスをみすみす逃した感じがあって、わりとガックリ来ていました。

 

それだけに、「ゆいが迷い、悩んでいる」。そんな当たり前のシーンが描かれたことで、彼女が非常に人間臭くなったそのことが、嬉しかったのです。しかもその間、戦えないふたりを守るのはスパイシーたちなわけで。仲間同士の信頼関係も描かれており、無駄のなさに舌を巻きました。

そしてその後、ゆいコメコメが弾き出した答えは、「悲しみも分かち合ってよ」テレビ本編のテーマを別アプローチで出力した結論は、ベタでありながら強く胸を打つものでした。ケット・シー役の花江夏樹氏の演技も相まって、かなり涙腺がピンチでしたね。

 

それからこれは、鑑賞を終えたあとに気が付いたことなのですが、ゆいの口癖といえば「デリシャスマイル」「腹ペコった~」「ご飯は笑顔」「おばあちゃん言ってた!」です。が、このうち映画で登場したのは3つだけです。

 

そう、「おばあちゃん言ってた!」って、ゆいは劇中一度も言ってないのです。もし聞き逃してたらごめんなさい

少なくともテレビ版よろしく、重要な場面でおばあちゃんの言葉を引用する、みたいなことはしていなかったはず。つまりこの映画において、ゆいはずっと自分の言葉で話し、考え、答えを出したのです。おばあちゃんに依存しない、自立したヒーロー

自分の見たかった和実ゆい像は、まさしくこれでした。

ありがとう。和実ゆいを、人間にしてくれて――。

 

テーマ

作品が掲げた大きなテーマだと感じたのは、「子どもと大人」「シェア」

前者に関しては、今回の映画ならではのテーマで、非常にうまいと思いました。子どものための夢の王国・ドリーミア、その象徴大人になりたいコメコメの、忌避するが抗えないお子様の象徴汚い大人になってしまったケット・シーの、思い出と贖罪の象徴。お子様ランチというアイテムにそれぞれのキャラがいろいろな想いを乗せており、最終的には「子どもも大人も関係ない」と蹴っ飛ばしてしまうところまで含めて、非常に秀逸だったと思います。現実的にはこの映画を観てお子様ランチを食べたくなった大人は、レストランで注文できないのはやや寂しいところですが……。

 

後者に関してはテレビ本編でも繰り返し「分かち合うことの楽しさ、尊さ」といったものを描いている印象があります。が、今作においてはやや角度をズラしたうえで拡大し、(先述した部分とやや被ってしまいますが、)ポジティブ方向ではなくネガティブ方向の「分かち合う」を導入したところが、とってもよかったなと。『オールスターズメモリーズ』で子育ての負の面が描かれた際にも結構驚きましたが、わりと近いベクトルのアプローチだったのかなとも感じました(まあ、こちらはそれよりかなり前向きですが)。

 

その他キャラの扱い

主役はゆい&コメコメ、敵役はケット・シーで、主にこの3人がメインキャラであることは自明ですが、その他のキャラに目を向けた場合はどうか。

まず目玉要素として宣伝されていた3妖精の変身ですが、これは正直おまけレベルだったかなぁと。ストーンの力を逆利用して変身するロジックや、妖精たちの人間態を先に見せておく手腕には唸りましたが、パムパムメンメンコメコメの想いにある種追従する形というか、言ってしまえばあの場のノリと勢いで変身しちゃった感じがするので、もし彼女らの掘り下げを期待していた層がいるとすれば、肩透かしになっていそうだなぁなんて気はしました。かくいう自分も、人間態パムパムのビジュアルが非常にかわいらしくて好みだったので、もう少し出番が欲しかったと思っている節はあります。まあ、尺を考えればそんな余裕は微塵もないのですけど……。

とはいえ、グリグリ動く戦闘作画と全員集合による必殺技(プリキュア・プレシャスエターナルドリーミア)の迫力にはかなり圧倒されましたし、前述の通りコメコメの想いによってかなり熱いシーンになっていたことも確かなので、大きく気になったポイント、というわけでもありません。

 

ここねらんあまねについては構成上多少割を食った感は否めませんが、先ほども書いた通り迷うゆいを守ったり、連携して警備を突破するチームワークの良さが描かれたりと、絆や信頼の見える描写が多かったのがよかったです。

序盤、ドリーミアで遊ぶシーンも、妖精たちを交えてみんなで仲良く遊ぶ様子が愛らしかったですし、ジェットコースターでぐったりするあまねはクールキャラ特有の崩し方をされていてかなり笑えました。どっちかっていうと戦隊でよく見るイジられ方

 

ブラペマリちゃんの出番に関しては、双方ともでしゃばることなく、かといって空気なわけでもなく、ごくちょうどいい塩梅だったと思います。あくまでプリキュア勢を主役とし、的確なアシストを飛ばす様子は、正しく準戦闘員のそれだったなと。

特にマリちゃんは、普段保護者ポジションゆえにやや万能感がありすぎるというか、若干過保護に見えてしまうきらいもあったりするのですが、今回は「子どもしかドリーミアに入れない」という設定ゆえに、ほどよい距離感を保つことに成功していたように思います。一方でデリシャストーン絡みで謎解きを開始したり、大人ゆえに警備に追われてしまうギャグを担ったり、幅のあるキャラの動かし方が見えて、面白い役回りでした。

 

同時上映

主人公ちゃんめちゃめちゃめんどくさい客だなと思っちゃった

尺が尺なのでかなり強引な展開ではありましたが、久々にスターグレースサマーの声が聞けてテンションあがりました。レジェンドが出てくるとやっぱり嬉しくなります。『わたしだけのお子さまランチ』『みんなのお子さまランチ』になったのは少し「おおっ」となりましたね。素敵な演出でした。

 

まとめ

とにかく「ゆいを人間にしてくれてありがとう」。それに尽きます。見たかった『デリシャスパーティ♡プリキュアが、ここにはありました。

テレビ本編は残りおよそ20話もないかと思いますが、この映画のゆいよりも人間らしくなってくれるのか、正直怪しいなと思っているのが本音です。

ただ別に自分は『デパプリ』のアンチをしているつもりはありません。

今からでもゆいはいくらでも魅力的なキャラにできると思うし、ゆい×拓海を面白く転がすことだって不可能じゃないし、「おばあちゃん言ってた!」を有効に活用できる未来もあるかもしれません。

映画のスタッフは本編のスタッフとは違う方々なので、そこで作風の違いが生まれたのはもちろんわかっています。が、70分の尺でできたことが、この先できないはずはありません。

『デパプリ』の未来に期待を込めながら、今回はここで、筆を置きたいと思います。

 

*1:たいてい一発で理解できる名言じゃないので、他キャラがわざわざ聞き返すくだりが挟まりがちなのも、テンポの悪化につながっていてよくないと思います

*2:思いのほかハードな過去が出てきて結構驚きました。もちろん過去作にも重い過去の敵キャラは何人もいますが

*3:完全に余談ですが、ここものすごく『ONE PIECE FILM RED』を思い出しました。ヒトをぬいぐるみにする敵がいるとこまで含め。東映アニメーションつながり??